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今治地方のイギス豆腐

今治と尾道を結ぶしまなみ海道周辺で食べられる郷土料理に「イギス豆腐」がある。「イギス」とは、浅海の岩礁に着く海藻の一種で、紅藻類イギス目イギス科に属し、学名を「Ceramium kondoi Yendo」という。

『和漢三才図会』には

水に注ぎて屡々晒せば則ち潔白なり。之れを煮れば則ち凝凍りて石花菜、菎蒻、餅の輩の如し。浅き器に盛り冷し定めて、繊く之れを裁りて醋未醤に和し之れを食味淡甘く美なり。最も上品と為す

と説明されている。最近は採取量が減っているが、干満の差が大きくなる土用(立秋の前の18日間)のころが、イギス採りの最盛期。船をしつらえて出掛け、熊手などを使って引き揚げる。採ったイギスは、汚れやごみ、魚の卵などを洗い落として、天日で乾燥する。この作業を繰り返して、保存できるようになるまで乾かす。同じく紅藻類のテングサからところてんや寒天が作られるのと同じ要領だが、「イギス豆腐」はイギスと大豆粉を使用する。

「イギス豆腐」の作り方は、まず乾燥したイギスと大豆粉、エビのだしを鍋に入れて火にかける。イギスが溶け始めたところで、塩やしょう油などの調味料とエビなどの具を入れる。5〜10分ほど煮たところで火を止め、バットなどの容器に流し込み、エビなどの海の幸をのせ、ゴマを振る。冷蔵庫に入れて、固まったら適当な大きさに切り、酢みそやショウガじょう油でいただく。

今治のスーパーでは、パックに入った「イギス豆腐」が総菜売り場に、乾燥イギスと生大豆粉のセットが乾物の棚に並んでいる。夏の風物詩でもある郷土料理だったが、主原料のイギスの収穫量が減ったこともあり、健康食品として価値を見直されながらも、家庭で作られる機会は年々減っているようだ。

今治地方では、「イギス豆腐」はこの辺りにしかないといわれるが、香川(小豆島)、広島、山口、兵庫(淡路島)や、福岡、大分、鹿児島(奄美大島)の一部にもイギスを使った料理がある。岡山と山口の一部では「イゲス」と呼ばれ、長崎・島原地方ではイギスを煮溶かして固めた料理を「いぎりす」と呼んでいる。今治地方の「イギス豆腐」の作り方は、大豆の粉を加えてイギスを溶かす時間を短くした点が、この地方特有で画期的だったという。

参考文献:土井中照『愛媛たべものの秘密』(アトラス出版)
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