ぼくらの木琴

9月13日(火)、「シネマート心斎橋」へ。だれかの木琴
東陽一・監督の『だれかの木琴』を鑑賞。
小説の方はまだ読んでいないのですが、
井上荒野の原作ですね。いずれ読みます。
タイトルに無理やり絡めたエピソードが
邪魔っぽくて、どこかの一軒家の一室で、
子供が木琴を叩いているけれど、
まだ音楽にならない……という情景は
極めて小説的で、含蓄があるだけに、
余計に説明臭さが煩く、映像として野暮ったく。

様々なカット、諸々の科白を通して、東監督は現代社会にNo!と言っています。
ぼくらの生きている この世界は駄目なんじゃない?と冷静に詰め寄ってきます。
表面上、引っ越したばかりの街で、主婦が若い美容師をストーキングし始める
――といったサスペンス・ドラマ風な展開で、観客を呼び込もうとしているようですが、
実は全く別物なのです。興行的に、陳腐なストーカー物の意匠を付加するのは
致し方ないと思うのですが、観てもわからない観客が多い世の中なので、
自分の目の前の物語がストーカー物の図式に当て嵌まらない……と、もやもやし、
よくわからないとつぶやく観客は多いかも。そのもやもや感こそ、監督の狙いだと
いうことは(おそらくは原作者も)、物語が展開するごとに明らかになるのですけれど。

ストーカー行為に走る主婦、親海小夜子の役は常盤貴子が演じています。
美容師・山田海斗役に池松壮亮。小夜子の夫で、警備機器会社に勤めるのが
親海光太郎(勝村政信)。劇中、幸太郎の上司(螢雪次朗)が酒席でのたまう
女の本質は狂うこと、男の本質は女になろうとすること――みたいな洞察は、
手の内を明かし過ぎといった観はありますが……終盤、ストーキングされた側の
海斗の恋人(佐津川愛美)が警備システムの行き届いた親海家に乗り込んで、
小夜子を糾弾するのに対して、夫・光太郎は妻への盲信に努め、家庭の外壁を守り、
夫婦は直接会話を交わすことなく、隣同士にいながら、メール交換で和睦に至ります。
一方で海斗は、新たな男と出逢った恋人に去られてしまいますが、淡々と受け容れ、
地方出身の独身男性、美容師としての日々に戻っていきます。海斗のもうひとつの
あり得た姿として、3mmカットの男(=放火魔)の風貌も、そつなく挟み込んだ上で。

全編を通して、池松壮亮の演技が絶妙で、物語の焦点はストーカー側でなく、
ストーキングされる若手美容師の側にあったような気すらしてしまうほど。
『愛の渦』で発見して以来、池松君は気になる役者です。また、妻の小夜子より
明らかに変でしょ!と感じさせられるリーマン光太郎、勝村政信の佇まいも○です。
堅固なホーム・セキュリティ・システムに囲まれた主婦の繰り出すストーカー行為など、
特殊な嗜癖ではなく、単なるストレス発散のようなもの。気ままに対象を変えるだけで、
“日常”はそのまま温存されていくよ……みたいな終わり方をしていて、そうなると、
本当に、貴方の日常生活はそれでよいのかい? 守る価値があるのかい? と
改めて問い直されているようであり、観客の多くが無意識に居心地の悪さを
覚えるのではなかろうかと思いました。興味本位でストーカーを見物に来たはずが、
そんな小物の変態の 些少な一行為なんか、どうでもよくなってしまうような
別種の得体の知れなさを突き付けられ、映画館で現実逃避する暇があるならば、
ぼくらの周りを取り囲む現実の薄ら寒さをちゃんと考えてみろよ、と言われたような。

スクリーンの中ではなく、ぼくらの周りこそが、気色悪い状況なのでしょうか。
随所に笑えるシークエンスも仕込まれていましたが、
電車の乗客が一律にスマホを弄る中、その間に座る老女がスマホの画面でなく、
位牌の表面をスワイプしていたという小ネタが面白かったです。
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Author:ぽか
通りすがりの夢想家。元(にして最後の)「トーヨー新報」編集人。現在は、一介の編集素浪人?



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「トーヨー新報」は、昭和33年(1958)創刊。大豆加工品(豆腐・油揚げ、納豆、豆乳、湯葉、凍り豆腐、もやし等)、こんにゃく、総菜業界をメイン購読者層に、月3回の旬刊紙「トーヨー新報」や業界関連データブック『豆腐年鑑』を発行。平成25年(2013)12月21日号、第1851号をもって終刊に至る。

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