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お化けの絵

10月の「二人の読書会」のテクストは、太宰治人間失格』。
十代の頃から、繰り返し読んできましたが、今なお読み続けているとは……。
集英社文庫版を読み終え、現在は“直筆”版の方で読んでいます。
年を取れば年を取っただけ、読み直すたびに、気に懸かる個所は変わります。
(常に変わることなく、自問せざるを得ないテーマのようなものもありますが)
今年は、美術館巡りをいつになく集中して敢行しているためか、
絵、洋画、印象派に関するシーンが胸に飛び込んできました。
       ☆
 竹一は、また、自分にもう一つ、重大な贈り物をしていました。
「お化けの絵だよ」
 いつか竹一が、自分の二階へ遊びに来た時、ご持参の、一枚の原色版の口絵を得意そうに見せて、そう説明しました。
 おや? と思いました。その瞬間、自分の落ちゆく道が決定せられたように、後年に到って、そんな気がしてなりません。自分は、知っていました。それは、ゴッホの例の自画像に過ぎないのを知っていました。自分たちの少年の頃には、日本ではフランスのいわゆる印象派の画
(え)が大流行していて、洋画鑑賞の第一歩を、たいていこのあたりからはじめたもので、ゴッホ、ゴーギャン、セザンヌ、ルナアルなどというひとの絵は、田舎の中学生でも、たいていその写真版を見て知っていたのでした。自分なども、ゴッホの原色版をかなりたくさん見て、タッチの面白さ、色彩の鮮やかさに興趣を覚えてはいたのですが、しかし、お化けの絵、だとは、いちども考えた事がなかったのでした。
       ☆
おそろしい妖怪」としての“人間”をプリミティヴに描こうと決意して、
主人公の大庭葉蔵は画家を目指す訳ですけれども、人間を恐怖しながらも、
自分に見えたままの表現に徹しようとした作者・太宰自身の作風と
パラレルに読み取れる個所かと思われます。絵画に小説の範を求めたというか。
人間(個人)~世間(人間の複数)への懐疑に相変わらず、深く首肯しつつも、
ぼくの脳裏では、デトロイト美術館所蔵のゴッホ自画像(本物)や、
森村泰昌の扮したゴッホ(別の意味で本物)が駆け巡っているのでした……。

参考文献:太宰治『人間失格』(集英社文庫)
       太宰治『直筆で読む「人間失格」 』(集英社新書)
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テーマ : 読書記録
ジャンル : 小説・文学

tag : 小説読書会美術

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たまに「考える人」、歴史探偵。
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