方向指示器

10月の読書会の課題テクストは、マイ・クラシックの最たるものでした。
その『人間失格』、「第一の手記」の劈頭では、停車場のブリッジ
地下鉄道が、垢抜けのした遊戯、風変わりで面白い遊びでは決してなくって、
敷布・枕のカヴァ掛布団のカヴァなどと同様に、実利的な必要性から
案出されたものだと知り、にわかに興が冷め、人間のつましさに暗然とし、
悲しくなる――といった告白が行われます。ただただ、プラクティカルでしかない
ものへの懐疑が語られているようであり、重苦しい(人間的な)意味から解放された
物自体への憧憬の念が吐露されているようでもあり。何かのための物でなく、
その物としていかようにもあり、共に戯れるものとしての在り方/流れ方……。
       ☆
読みながら思い出していたのは、自動車のウィンカー方向指示器)のことでした。
若い頃、それもかなり長じるまで、ぼくは走行中の自動車がどちらへ曲がるのか? 
予知することが出来ませんでした。「予知」や「予見」といった言葉を用いるのは
妥当でないかもしれません。正直に言うと、自動車が右左折、進路変更する際に
方向指示器で変更方向を示す、ということを(或る時期まで)全く知らなかったのです。
学生時代、日払いのアルバイトとして交通警備員を務めたことがある訳ですが、
赤旗/白旗を持って交差点に立った時、次に来る自動車がどちらへ曲がるのか? 
真剣に悩みました。その後、数時間、鼻先を通り過ぎて行く一台一台の車を観察し
続けた結果、ようやくにして、方向指示器の意味が天啓のように降りて来たのでした!
       ☆
となると、その日までのぼくは、走って来る自動車が一体どちらへ曲がるのか? 
皆目予測できていなかった……ということになり、そもそも現在ですら、眼前を行き交う
自動車がどういう動きをしようが知ったことではない、という意識が根強いようでして。
ちなみに、方向指示器は「ウィンカー」のほか、「ターンシグナルランプ」との
呼称が一般的になりつつあり、米国英語で「blinker」「turn signal」、英国では
「(directionalindicator」と表記されるそう……show me the way.

参考文献:太宰治『人間失格』(集英社文庫)
       太宰治『直筆で読む「人間失格」 』(集英社新書)
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ジャンル : 小説・文学

tag : 小説 読書会

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吉祥楼

この日も「吉祥楼」でランチ(?)を取った後で、読書会。

暗い?

たまに、太宰治を「暗い」と評する人がいるのだけれど、
大抵はまともに読んでない人が多かったりする。
“死”やら“苦悩”やら、何やらを扱っているというだけで、
「暗い」と決め込んでいるのかな。
文学的なセンスに欠けるなぁ。
太宰ほどサービス精神旺盛で、笑える小説も無いのだけれど。

笑い飛ばすしかないほど、やれん時がある
というのを知らない連中は幸せだ。
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通りすがりの夢想家。元(にして最後の)「トーヨー新報」編集人。現在は、一介の編集素浪人?



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「トーヨー新報」は、昭和33年(1958)創刊。大豆加工品(豆腐・油揚げ、納豆、豆乳、湯葉、凍り豆腐、もやし等)、こんにゃく、総菜業界をメイン購読者層に、月3回の旬刊紙「トーヨー新報」や業界関連データブック『豆腐年鑑』を発行。平成25年(2013)12月21日号、第1851号をもって終刊に至る。

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