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大豆の自己破壊説

大豆はイネとならんで日本を代表する作物で、大豆から作られる豆腐、納豆、味噌、醤油は古くから日本人の食生活を支えてきた食品であり、栽培の歴史もきわめて長い。しかしながら、その単収水準は高いものでなく、米国はもとより栽培の歴史の浅いブラジルやヨーロッパにさえ大きく遅れをとっている。

大豆はイネやトウモロコシに比べて、多収を得ることが難しい。米国でもトウモロコシの収量は1950年から3倍以上に伸びているが、大豆の伸び率は50%にとどまっている。これは大豆が他の作物と性質が大きく異なっているためではないかと考えている――として、農学博士の有原丈二さんは著書『ダイズ 安定多収の革新技術』(農山漁村文化協会発行)で「大豆の自己破壊説(self destruction theory)」について解説している。

イネ、小麦、トウモロコシなどの単収は20世紀半ばから大幅に向上したが、それは肥料、特に窒素肥料の増大によるところが大きい。これらの作物は窒素肥料に素直に反応して収量が増大する。しかし大豆は、窒素肥料を投入しても収量が簡単には向上してこない。リン酸やカリ肥料の効果は見られるが、大幅な収量向上につながることはなかなかない。

これは、大豆の窒素要求量が非常に高いことにあると思われる。あらゆる作物の中で最もたんぱく含有量の多い大豆は、その子実生産に必要な窒素量が最も多く、作物が供給できる上限値よりはるかに高い。つまり、大豆の子実生産には、根や根粒が供給できる以上の窒素が必要なのである。

このように、大豆は子実生産に必要な窒素量が根系からの窒素供給量を上回るため、葉や茎に貯蔵していたたんぱく質を分解して窒素を子実に供給せざるを得なくなる。葉や茎のたんぱく質が分解されると、光合成をはじめとする葉の生理活性は低下し始めるが、これは根粒への光合成産物の供給を低下させ、窒素固定をさらに低下させる。そして窒素供給はさらに低下し、葉のたんぱく質分解はさらに加速化される。

こうして一種の悪循環ともいえることが始まり、登熟期間はどんどん短縮されてしまう。ところが、根粒からの窒素供給が多く、土壌からの窒素供給量が多かったりすれば、葉のたんぱく質分解が遅れるため、登熟期間が長くなり、収量も高くなる。このように子実収量は、大豆がどのくらい窒素を吸収できるかによって決まってしまうというのが、「大豆の自己破壊説self destruction theory)」と呼ばれるものである。したがって大豆では、「莢数、百粒重、あるいは一莢粒数などの収量構成要素はただ、窒素吸収量に応じて調整する役割をもっているだけである」といわれている。

このように大豆収量がおもに窒素吸収量によって決まってしまう理由は、子実のたんぱく質が多いため、子実肥大中の大豆の窒素要求量がきわめて高いということにある。たんぱく質含有量の高い品種ほど収量性が劣る傾向にあり、作りやすい多収の大豆はえてしてたんぱく含量が低かったりすること、大豆収量は土壌の窒素肥沃度の高いところで得られやすいことなどを考えると、納得のいく説明であるように思える。

参考文献:有原丈二『ダイズ 安定多収の革新技術』(農山漁村文化協会)
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