昴と参
「おお、小十郎、おまえを殺すつもりはなかった。」
もうおれは死んだ、と小十郎は思った。そして、ちらちらちらちら、青い星のような光が、そこらいちめんに見えた。
「これが死んだしるしだ。死ぬとき見る火だ。熊ども、ゆるせよ」と小十郎は思った。それからあとの小十郎のこころもちは、もうわたしにはわからない。
とにかく、それから三日目の晩だった。まるで氷の玉のような月が、空にかかっていた。雪は青白く明るく、水は燐光をあげた。すばるや参(しん)の星が、緑やだいだいにちらちらして、呼吸をするように見えた。
(宮沢賢治「なめとこ山の熊」)
☆
「すばる(=昴)」は、おうし座の散開星団「プレアデス星団」。
「参の星」は中国の星座名“二十八宿”の一つで、オリオン座の三つ星に該当。
すばる自体も二十八宿の一つ、「昴宿(ぼうしゅく)」に当たります。
文字面だけを追っていると、位置関係がよくわからないかもしれませんが、
頭に冬の夜空を思い描き、オリオン座の三つ星の並びをそのまま西へ延ばしていくと、
おうし座の一等星、アルデバラン(Aldebaran)が目に入ってくるはずですし、
さらに、その延長線辺りにすばるが位置している訳ですね。
星の運行上は、すばるの後にアルデバランが上ってくるので、
アルデバランは「後に続くもの」という意味から名付けられたようです。
ともあれ、オリオン座とおうし座の星をさりげなく並置することで、
天上に描かれるオリオンと牡牛が永遠に闘う絵姿を指し示し、
小十郎と熊(たち)……この地上で生きとし生ける物たちが、
営まざるを得なかった争闘(=宿命)の写し絵としているのでしょう。
参考文献:宮沢賢治『銀河鉄道の夜』(偕成社)
もうおれは死んだ、と小十郎は思った。そして、ちらちらちらちら、青い星のような光が、そこらいちめんに見えた。
「これが死んだしるしだ。死ぬとき見る火だ。熊ども、ゆるせよ」と小十郎は思った。それからあとの小十郎のこころもちは、もうわたしにはわからない。
とにかく、それから三日目の晩だった。まるで氷の玉のような月が、空にかかっていた。雪は青白く明るく、水は燐光をあげた。すばるや参(しん)の星が、緑やだいだいにちらちらして、呼吸をするように見えた。
(宮沢賢治「なめとこ山の熊」)
☆
「すばる(=昴)」は、おうし座の散開星団「プレアデス星団」。
「参の星」は中国の星座名“二十八宿”の一つで、オリオン座の三つ星に該当。
すばる自体も二十八宿の一つ、「昴宿(ぼうしゅく)」に当たります。
文字面だけを追っていると、位置関係がよくわからないかもしれませんが、
頭に冬の夜空を思い描き、オリオン座の三つ星の並びをそのまま西へ延ばしていくと、
おうし座の一等星、アルデバラン(Aldebaran)が目に入ってくるはずですし、
さらに、その延長線辺りにすばるが位置している訳ですね。
星の運行上は、すばるの後にアルデバランが上ってくるので、
アルデバランは「後に続くもの」という意味から名付けられたようです。
ともあれ、オリオン座とおうし座の星をさりげなく並置することで、
天上に描かれるオリオンと牡牛が永遠に闘う絵姿を指し示し、
小十郎と熊(たち)……この地上で生きとし生ける物たちが、
営まざるを得なかった争闘(=宿命)の写し絵としているのでしょう。
参考文献:宮沢賢治『銀河鉄道の夜』(偕成社)
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