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安吾と仏像(2)

この季節ですと「桜の森の満開の下」、あるいは「紫大納言」など、
坂口安吾の説話形式の小説が、ぼくの大の好物なのですけれども、
1952年6月、「新潮」に発表された「夜長姫と耳男」もまた素敵な作品です。
夜長(よなが)の長者に招かれた、飛騨随一の名人と謳われた匠の親方に代わり、
まだ20歳の若者、耳男(ミミオ)が推薦されました。親方曰く、「仏像を刻めば、
これが小僧の作かと訝
(いぶか)しく思われるほど深いイノチを現します」と。
この語り手にして主人公、大きな耳が上へ立ち、頭より高く伸びている異相をもって
「耳男」と名付けられたようなのですが、夜長の長者に大耳を論(あげつら)われ、
さらに13歳の夜長姫に(耳男の顔相が)「本当に馬にそッくりだわ」と叫ばれ、
馬耳(うまみみ)」呼ばわりされるようになります。耳男は他にも招かれた名人らと
合計3人で腕比べをさせられる訳ですが、今回の仕事は夜長姫の持仏を造ること。
このヒメの今生(こんじょう)後生をまもりたもう尊いホトケの御姿を刻んで
もらいたいものだ。持仏堂におさめて、ヒメが朝夕拝むものだが、ミホトケの
御姿と、それを収めるズシがほしい。ミホトケはミロクボサツ。その他は
銘々の工夫に任せるが、ヒメの十六の正月までに仕上げてもらいたい

と、長者は仏像造りを命じるのでした。何とも、弥勒菩薩です。しかし、耳男が
刻もうと祈願するのは“魔神”、モノノケの像なのでした。蛇の生き血を呷(あお)り、
「血を吸え。そして、ヒメの十六の正月にイノチが宿って生きものになれ。
人を殺して生き血を吸う鬼となれ」
と、3年かけて、耳男は仕事を仕上げます。
造られた像について、「それは耳の長い何ものかの顔であるが、モノノケだか、
魔神だか、死神だか、鬼だか、怨霊だか、オレにも得体が知れなかった。
オレはただヒメの笑顔を押し返すだけの力のこもった怖ろしい物でありさえ
すれば満足だった
」と耳男は述懐しています。仏像好きならば、これは弥勒菩薩
でなく、馬頭観音……いや、深沙大将ではないか?と夢想が広がるくだりです。

参考文献:坂口安吾『桜の森の満開の下・白痴 他十二篇』(岩波文庫)
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テーマ : 仏教・佛教
ジャンル : 学問・文化・芸術

tag : 仏像小説

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たまに「考える人」、歴史探偵。
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