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『泥の河』の舞台

4月の「二人の読書会」のテクストが、非常に
2008_06_14_船津橋と端建蔵橋
2008_06_14_昭和橋

べたなことに、宮本輝『青が散る』となり、
どうせなら、初期の“川三部作”も読み返して
しまえ!と、『泥の河』から再読し始めていた
訳なのです。昔、読んだ時には、大阪が舞台
という印象くらいで踏みとどまり、下手すれば
『道頓堀川』とごちゃ混ぜになりかねない勢い
だったのですが、要は、“物語”を追うことに
一所懸命なだけで、小説の中の風景、とりわけ
に対する軽視が原因だったかと猛反省。
近世は“浪華の八百八橋”と呼ばれていた
ように、大阪の風景描写の要諦は、橋にこそ
有り!なのですねえ。右上の画像は、船津橋
(手前)と端建蔵橋。上下の画像ともに2008年
6月14日に撮影。当時2日間かけて、中之島
架かる橋を撮って回っていましたねえ。何がそう
させたのか? よくは思い出せないのですが、
今では立派な“橋”好きになってしまいました。
『泥の河』の初出は1977年、時代設定はさらに
昭和30年(1955)と作品内で明記されており、
現在の雰囲気とだいぶ変わっていることは当然にしましても、
年月とともに東へ広がっていく中之島の東端ほどではないかとも思われるのです。
       ☆
 堂島川と土佐堀川がひとつになり、安治川(あじかわ)と名を変えて大阪湾の一角に注ぎ込んでいく。その川と川とがまじわる所に三つの橋が架かっていた。昭和橋端建蔵橋(はたてくらばし)、それに舟津橋である。
 藁や板きれや腐った果実を浮かべてゆるやかに流れるこの黄土色の川を見おろしながら、古びた市電がのろのろと渡っていった。
 安治川と呼ばれていても、船舶会社や夥しい数の貨物船が両岸にひしめき合って、それはもう海の領域であった。だが反対側の堂島川や土佐堀川に目を移すと、小さな民家が軒を並べて、それがずっと川上の、淀屋橋や北浜といったビル街へと一直線に連なっていくさまが窺えた。


参考文献:宮本輝『川三部作 泥の河・螢川・道頓堀川』(ちくま文庫)
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テーマ : 読書記録
ジャンル : 小説・文学

tag : 小説

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細かいこと

堂島川に架かるのが船津橋(=舟津橋)、
土佐堀川に架かるのが端建蔵橋。
ちなみに、大阪市電は昭和44年(1969)に廃止。
宮本輝は、既に無い市電が走っていた時代の
大阪を舞台に引っ張ってきたということになります。

「泥の河」再読します

初めてコメントをする者です。秀逸なブログ内容に敬服します。以下、ほんの思いつきをコメントします。「泥の河」映画版(1981年小栗公平監督)には、田村高廣、藤田弓子、加賀マリコが出演していますが、何と言っても、松本銀子役の柴田真生子の存在がが貴重です。柴田真生子の出演作品は、これ一作のみで女優にはなりませんでした。宮本輝氏は、現在も芥川賞選考委員を務めているようです。富山市の北日本新聞社主宰の「北日本文学賞」の選者を、初代・丹羽文雄、二代目・井上靖を引き継ぎ、三代目として25年以上継続されています。今後、貴ブログ記事を愛読する所存です。どうも有難うございました。

感傷癖に流れない客観性

>> 中原さま

コメント、ありがとうございます。
映画(1981)の方は、深夜TVでいつの間にか見入っていて、
ほぉ!と感心させられた記憶があります。
モノクロならではの美しい映像の場面が多々あり、
考えてみれば、原作自体も作者の幼少期に材を取り、
ノスタルジックな趣向を凝らしてはいますが……
今回、読み返してみて確認できたことは、
安易に過去の記憶に逃避しない、強靭な距離感覚です。

また、ぼくの周囲でも「北日本文学賞」に応募した
という話を時折耳にしますが、どうも甘い感傷癖が目立つ
傾向が多いような気がしないでもなく、そうなると
宮本輝氏も、世間的なイメージで偏向させられてしまっているようで、
何となく、気の毒な感じも一部でいたします(本文等、一部敬称略)。
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たまに「考える人」、歴史探偵。
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