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美しい星

5月26日(金)、大阪・天王寺の「あべのアポロ2017_05_26_『美しい星』
シネマ」まで、映画を観に出掛けました。
吉田大八・監督の『美しい星』(2017)です。
原作が三島由紀夫の同名作(昭和37年)。
吉田監督が、純文学作家の看板を借用して、
エンタメ寄りから芸術志向へシフト・チェンジか
と疑っていました。どうなんでしょうねえ? 
『美しい星』は、三島の諸作品の中でも
SF的な趣向が目立つ以外は、極めて調子が
低い作品ではないか?と考えていたもので。
自らが火星人であることに覚醒する大杉重一郎(=リリー・フランキー)、
妻・伊余子(=中嶋朋子)、長男・一雄(=亀梨和也)、長女・暁子(=橋本愛)らの
役者陣は見事です。父親が火星人として振る舞うことをよそに、一雄は水星人、
暁子は金星人として目覚めていく様が仕方ないなあ、と感得されます。
(一番、宇宙人臭いのが、弁護士秘書・黒木克己を演じる佐々木蔵之助だったりして……)
伊余子は地球人として、“水ビジネス”に勤しみ、よくいる変な人たちです。
宇宙人であると自覚したからといって、超能力や特殊能力が使える訳ではない
ところがポイントです。現実は変わらない。変えられない。だからと言って、
今の現実を貴方たちは受け容れられるのか? 重一郎は問いかけます。
原作の発表時、三島が俎上に上げたのは核兵器の問題でした。
吉田作品では、「地球温暖化」問題が執拗に取り上げられているのですが、
原作の流れや本来の問題提起から行けば、「原発再稼働」を持ってくるべきかな。
脚本もその方がスムーズに書き換えられ、アップデートも容易だったはず
と愚考するのですが、映画産業自体の在り方からして、無理な状況もわかります。
政治的にナイーヴ過ぎて、スポンサーが皆、下りてしまうだろう、と。
(メジャー)映画というジャンル自体が牙を抜かれ、毒気を失っていますものね。
その逃げ場の無い閉塞的な状況の中、重一郎は吠え、大杉家は奔走します。
おかしな言動を繰り返す人たちを見て、「おかしい」と切り捨てるのは簡単です。
ただ、すべての言説が既成の枠組みの中に取り込まれ、呑み込まれてしまう時代、
敢えて、奇矯な立ち居振る舞いに至ってしまうことでしか、訴えられないことが
あるのではないか? 火星人のけったいなポーズに失笑した後、そのポーズで
何を指し示したかったのか、一瞬でも、思いを馳せてあげられないかなあ? 
映画は唯の映画(小説だって唯の小説)。単なる作品として、ああだ、こうだと
批評は自由。ただ、作り手が相手に対して、本気で何かを伝えたくなった時は、
作品の受け取られ方なんかどうだっていい、貴方たちの生き方はそれでいいのか?
と絡んでしまうのでは? 商品(サービス)として受け取れ!というのではなく、単に
考えるヒントであれば十分だから、一人ひとりに真剣に考えてもらいたいのでは? 
正直、観る前から舐めてかかっていたので、泣きそうになっていたぼく自身に驚き。
ラストの特撮はセンス・オブ・ワンダー。一人の地球人としての自分の生き様に対し、
宇宙のどこか遠くの果てから眺めて見た時、貴方はそれを肯定できるでしょうか? 
SFが或る種の科学的前提に基づく思考実験であるように、映画『美しい星』は
一宇宙人としての視野に立った上で、観客の覚悟を問い直す127分の実験です。

映画『美しい星』の製作には、同人Kさんのご子息が噛んでいるそうで、
公開時期をKさんに教わっていたことから、天王寺に出掛けたのでした。
映画の最後で流れるスタッフ・ロールに目を凝らしてはいたのですが、
息子さんの氏名を見落としてしまいましたよ。すみません。
映画製作に関わる人の数は半端ないものです。
なお、一部表現を改変して、「映画.com」にもレビューとして投稿。
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テーマ : 邦画
ジャンル : 映画

tag : 映画小説特撮

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歌わない詩人、喰えない物書き。
たまに「考える人」、歴史探偵。
フードビジネス・コンサルタント
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