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永源寺こんにゃく

18世紀末、松葉軒東井が編集したことわざ辞典『譬喩尽(たとへづくし)並に古語名数』(通称『譬喩尽』)で、豆腐の絞りかす「きらず(おから)」の語を引くと、「豆腐殻(きらず)不盈(こぼさず)喰えば長者になる」など、『譬喩尽』は近代の風俗を知る文献資料として便利なものだ。その『譬喩尽』にこんにゃくの語を探ると、「こんにゃくと糯米(もちごめ)は近江がよし」ということわざが目に付く。京都の人が近江産のこんにゃくと糯米を良品として扱ったことに由来するといい、上方では近江地方がこんにゃく産地として重視されていたようだ。

近江には「永源寺こんにゃく」と呼ばれる伝統的な特産品がある。その歴史は、臨済宗永源寺と足並みをそろえて古く、由緒あるものだ。南北町時代の康安元年(1361)、近江国の領守・佐々木氏頼が、この地に伽藍を建て、寂室元光禅師を迎えて開山、「瑞石山永源寺」と号したのが端緒。寂室元光禅師が開祖となったのは72歳の時だが、彼が31歳である元応2年(1320)には中国に赴き、天目山の中峰和尚について7年間修行している。中国から帰国する際、寂室元光禅師はこんにゃくの種芋を持ち帰り、それが永源寺の開かれた一帯に植えられたものが、永源寺こんにゃくの始まりと伝えられる。

臨済宗の開祖、栄西禅師は喫茶の習慣を日本に伝えたことで有名だが、同じ臨済宗の一派である永源寺周辺も有名な「政所茶」の産地である。こんにゃくの栽培には、水はけが良く、日射量の少ない土地が適しているといわれるが、永源寺町の場合、茶畑に植えられることが多い。

永源寺こんにゃくと政所茶——2大特産品を生産する永源寺町の農家では、茶畑の畝(うね)に種芋を栽培し、木灰(草木を焼いて作った灰)の灰汁で凝固させてこんにゃくを製造していた。現在のこんにゃく製造では、ほとんどがこんにゃく精粉と消石灰(水酸化カルシウム)を原料に作られているが、同町の蓼畑地区では灰汁で作る製法が伝承されている。用いる灰汁には広葉樹の灰が良いとされ、藁灰と茶樹灰をとおしで振るって使う。灰汁の濃度は、藁のぬきんぼで3センチメートルくらいの径の輪を作り、それですくってシャボンのように鏡になればちょうど良いといわれている。

参考文献:滋賀の食事文化研究会・編『芋と近江のくらし』(サンライズ出版)
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