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Never Let Me Go

7月の「二人の読書会」のテクストは、カズオ・イシグロ『わたしを離さないで』
べたですよねえ。しかし、高尚で難解な文学理論をひねくり回す読書会でもなく、
これでいいのです。基本に徹して、素の心で読んでみることが始まりですから。
課題図書だけでなく、カズオ・イシグロの他の代表作なども、これを機にまとめて
固め読みしているところですが……今回の選定理由は、映画化されたからでなく、
ましてや、TVドラマ化されている作品ということにもなく、高橋源一郎先生の
お話「いま 時代を語ろう in 大阪」の中で取り上げられたことが大きいでしょう。
実際は、高橋先生の意見というより、加藤典洋の“敗戦後”論の孫引きのような
形ではありますけれども。『わたしを離さないで』の語り手、キャシー・Hを含めて、
主立った登場人物は、ヘールシャムHailsham)で生まれ育っているのですが、
このヘールシャムは、××××の際の“提供者”を育成する施設なのですね。
そこで、予め未来に制限の加えられた過酷な現実に対して、いずれの提供者らも
極めて従順で、諦観をもって迎え入れている心的態度は何なのか?と。
何故、彼らはそこで、反抗・抵抗したり、闘ったりしようとしないのだろう?と。
加藤の指摘は、ヘールシャム(Hailsham)=広島Hiroshima)であることです。
つまり、大人しい羊のように、所与の現実を盲目的に受け容れてしまう提供者に、
敗戦後の日本人像を重ね合わせて見ている訳です。目には入っているけれども、
しっかり見ていない。わかっているとうそぶいても、本当には理解できていない、と。
よく陥る過ちの一つではあるのですが、考えることを身体的行為と全くの別物と
見なしてはいけません。筋肉同様、脳にも、或る程度の負荷を掛けないことには
本当に“考える”ことは無理なのです。言葉のシャッフル、ルーティン・ワークで
耳に馴染みの良い配列を選り出すだけで、「考えている」と言うのは片腹痛くて……
閑話休題。語りの中、現在時に回想を滑り込ませるスムーズな手管に舌を巻きます。

参考文献:カズオ・イシグロ『わたしを離さないで』(ハヤカワepi文庫)
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テーマ : 読書記録
ジャンル : 小説・文学

tag : 小説

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歌わない詩人、喰えない物書き。
たまに「考える人」、歴史探偵。
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(自称)。
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