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『雨月物語』と劇

9月の「二人の読書会」テクストは『雨月物語』
本来は、上田秋成の原文に当たりたいところですが、
今回は調子を下げて、石川淳の新釈に拠っています。
しかし、青木正次の全訳注は偉業です。読み直しても感服するばかり。
       ☆
 作者にとって、観念的な自然をなす〈言葉〉の理念的自覚に始まり、社会的な人間関係や性的な関係を経て、対自的な個的関係までを、知的な登場人物の思想が置かれる理念的な〈場〉として経験する往相と、そこからふたたび逆の過程を今度は自然的な〈場〉として経験しながら出てゆく還相とがあり、終わりにそれら観念的な往還の自然的な基底である、金銭的な世界についても思想を試されるというのが、『雨月物語』九編の流れである。
       ☆
単なる怪異文学にとどまらない、上田秋成の“小説”としての射程を
(つまび)らかに説明して、間然とする所がありません。
知的経験(知識=言葉)に囚われてしまいがちな主人公らを
陰に日なたに支えているのが、金銭である現実……。
精神の運動を支えるに金銭が介在せざるを得ないのは、
“近世”という資本主義時代の幕開けにいたからです。彼らも、ぼくらも。
その近世という時代社会の自然認識の表現様式として、“文楽”も登場します。
       ☆
自然認識を世界性として展開した最も近世的な表現様式を求めれば、それは浄瑠璃の五段組織に行き当る。一段目は社会的な理念の場に、二段目は性的な理念に関わり、三段目は個的な情念を輩出する中核となり、四段目ではふたたび性的な理念の場に戻り、五段目で社会的な理念へ行きついて、最初の一段目に円を描くように連接する世界像を形づくっている。これは、さかのぼって中世の劇表現()に付随して現われた世界像、「神・男・女・狂・鬼」という五番立ての上演形式に表わされたものの近世的な展開だといえる。劇表現の時代(近世)でも、他の時代と同じくすべての表現様式はその時代の尖端の表現(劇)に見習うのである。

参考文献:青木正次『新版 雨月物語 全訳注』(講談社学術文庫)
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テーマ : 読書記録
ジャンル : 小説・文学

tag : 小説文楽演劇

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たまに「考える人」、歴史探偵。
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