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溝口雨月

先月の読書会のテクストが『雨月物語』(石川淳の新釈)
だったことから、原作本を丹念に精読し直すとともに、
溝口健二・監督の『雨月物語』(1953)も、このところ
3回ほど続けて鑑賞していましたよ。ええ、名作ですとも。
第13回「ヴェネツィア国際映画祭」の銀獅子賞受賞作品。
映像における陰翳礼讃……見事です。ぼく自身、
モノクロ映画を偏愛していますし、欧米人のジャポニスム
嗜好をそそってやまないだろうなあ、とも容易に想像。
だけど、上田秋成の原作小説とは全くの別物。
「浅茅が宿」「蛇性の婬」の2編から着想を得ている
とはいえ、川口松太郎らの脚色によって、“自然”に対する
先鋭的な意識の在り方が骨抜きにされ、まかり間違えば、
単なる常民賛歌に終わりかねないストーリー・テリングに
大いに不満を感じています。功名富貴をいたずらに求めず、
日々の営みを全うせよ!という教訓話に堕しかねないのが、
何ともやれんなあ、と。「浅茅が宿」主人公・勝四郎の“物にかかはらぬ性(さが)”、
「蛇性の婬」豊雄の“都風(みやび)幻想”などを持ち合わせぬ故、映画の主人公・
源十郎(=森雅之)が彼岸の世界へ跳ぶことは決してないだろう、と最初から
見くびった上で、勝四郎の妻と同名であれ、源十郎の妻・宮木(=田中絹代)は
結局のところ夫を赦すだろうし、源十郎に対して誘惑する若狭(=京マチ子)も、
豊雄に懸想する真女児(まなご)ほどには執着しないだろう、と安心しているのです。
勝四郎/宮木、豊雄/真女児の間で口を開けた言葉の乖離が映画では見られず、
同一平面状に展開される源十郎・宮木・若狭の会話は、極めて民話的なのでした。
『雨月物語』の凄み、というか えぐみは、言葉にしようがない ぎりぎりのところで、
何とか対話を続けようとする“個”の絶望的な足掻きに在ると思うのですけれども。
――欺くに詞(ことば)なければ、実(じつ)をもて告(つぐ)るなり。

参考文献:青木正次『新版 雨月物語 全訳注』(講談社学術文庫)
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テーマ : 邦画
ジャンル : 映画

tag : 映画小説

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たまに「考える人」、歴史探偵。
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